2021.10.26
寺澤佳洋先生インタビュー
~地域で必要とされる鍼灸師とは~
日本内科学会 総合内科専門医・指導医
寺澤佳洋先生
2000年4月入学~2004年3月卒業 明治鍼灸大学(現 明治国際医療大学)・鍼灸学部
2004年4月入学~2005年3月中途退学 中和医療専門学校・柔道整復科
2005年4月2年次編入学~2010年3月卒業 東海大学・医学部医学科
2018年4月~2020年3月 グロービス経営大学院・経営研究科・経営専攻(MBA)
医師歴
2010年4月~2012年3月:千葉県内の病院と千葉大学医学部附属病院で初期研修
2012年4月~2014年3月:藤田保健衛生大学(現:藤田医科大学)病院救急総合内科など
2014年4月~藤田保健衛生大学病院豊田市・藤田保健衛生大学連携地域医療学寄附講座助教、豊田地域医療センター(※)
2021年7月~(現在):長崎県南島原市 口之津病院
(※)豊田地域医療センターは現在、総合診療研修を希望する医師(専攻医)が日本一医師集まる病院です。寺澤先生は立ち上げなどに関わっていらっしゃいました。
専門医など
・日本内科学会 総合内科専門医・指導医
・日本プライマリ・ケア連合学会 家庭医療専門医・プライマリ・ケア認定医
・日本老年学会 老年病専門医
・日本在宅医療連合学会 認定専門医
・日本温泉気候物理医学会 温泉療法医
川畑
本日はインタビューよろしくお願いいたします。
先生はご自分でも「医はき師」と仰っている通り、鍼灸師と医師免許をお持ちで希少な存在でいらっしゃいますが、ご自身ではそのことをどのように捉えていらっしゃるのでしょうか?
寺澤先生
すごく格好良く言えば、最近では使命感みたいなものが出てきて、「医師と鍼灸師をつなぐ役割」というのが僕の人生のミッションの1つなのではないかと感じています。
医者をしていると自分が鍼灸をする時間がなかなかないのですが、社会には鍼灸師の方々がたくさんいるし、技術や知識を持っている方や資源はたくさんあるので、できればその人たちがうまく活躍できる場を作りたいなと思い始めていますね。
川畑
ありがとうございます。
先生だからこそのミッションですね。
医師の世界では、鍼灸はあまり出てこないのでしょうか?
寺澤先生
そうですね。鍼灸大学にいるときは、鍼灸というのは当たり前の存在です。
患者さんは鍼灸とはどういうものかを知っているし、周りの人も鍼灸を知っていて、鍼灸の経穴という言葉が共通言語だったり。
でも医師の世界、医学部に入って医者をやっていくと、鍼灸はもちろん、言葉自体が共通言語じゃなくなるんですよね、それがまず一つ不思議な体験でした。
一方で、自分が見てきた経験や自分が患者さんを治療した経験から、東洋医学や鍼灸は効果があるということを実感している。
だからこそ、なぜ東洋医学や鍼灸がこの世の中で使われないのか、正確にいうと医師の世界では使われないのだろう?と不思議だったんですね。
海外のガイドライン等では、鍼灸は比較的上位に記載があります。
だからこそ病院・医師と鍼灸院・鍼灸師をつなぐ活動ができればというように思うようになりました。
川畑
なるほど、それも寺澤先生ならではのご経験ですね。
先生は地域医療という分野で家庭医療専門医として活躍されていて、「鍼灸師の学校」でも地域医療をテーマにしていただく予定です。
この地域医療というテーマでは、どのようなことが注目されていたり、特にこの時代で大切になってきているトピックがあれば教えていただけますでしょうか?
寺澤先生
地域医療というのは簡単にいうと、住民と住民がいる地域全部を見る医療ですけど、その担い手として総合診療医が注目されています。
総合診療医は新しい制度での呼び方で、家庭医やプライマリ・ケア医ともほぼ同義語です。
総合診療医というのは幅広い視野で患者と地域を診る医者という風に表現されますが、日本ではまだ発展段階にあると思います。
一方で、海外では地域医療(学)というのが学問として成立しているんですね。
それがやっと日本でもしっかり学問として行われるようになってきて、総合診療医という専門医が2021年秋、まさに今年試験が行われて第1号が生まれるというところです。
新たな専門医制度ができたということは、そのような人材を国が必要としているということと想像されます。
一方で、鍼灸師の方もベテランの先生になってくると、特定の病気だけを診ているという形ではなくて、地域も診ている先生が多くて、総合診療医と鍼灸師の視点や考え方は非常に親和性が高いと感じています。
その意味で、地域医療の学問的なことは、鍼灸師の先生方も身につけておくととても力になるのではないかなという風に思っています。
繰り返しますが、これを僕が広めるということが私のミッション・使命であると考えています。
川畑
ありがとうございます。
確かに先生だからこそ成し得るテーマではないかと聞いていて思いました。
世界だと例えばイギリスなどがイメージとしてあるのですけれども、地域医療が進んでいるのでしょうか?
寺澤先生
さすがです。
特に、イギリスは総合診療医制度が進んでいるところです。
簡単にいうと市民一人に対して総合診療医の一人が決まっています。
体の不調が起こった時に、最初に行ける病院やクリニックが決まっているんですよ。
そこに行って、その先生が必要だと認めたら、大きい病院に紹介するというシステムなんです。
極端に言えば、人によっては一生その先生にしか診られないこともあるということです。
実は、日本の医療制度というのは世界から見ても奇異なシステムですよね。
国民皆保険で好きな医療機関を好きなタイミングで受診できるし、もちろん地域を超えて、例えば大阪の人が東京の病院を受診することは全然問題なくできる。
川畑
なるほど、勉強になります。
日本だと、患者が勝手に大学病院に行ってしまうとかでしょうか?
寺澤先生
そうですね。
勝手に大学病院に行ってしまうと、大学病院が本来やるべきことができなくなってしまうので、ゲートキーパー的なドクターをしっかり作ろうというのが総合診療医の専門医制度であり、このような新しい制度ができた背景です。
鍼灸院も、そのような役割になることもよくありますよね。
「困ったのでひとまず鍼灸院に来ました。」「話しやすいから来ました。」などなど。
かかりつけ鍼灸院というのは結構理想的かなと思っています。
なので、鍼灸師も総合診療医的な視点が必要であり、総合診療の理論や考え方が役に立つと思います。
幅広い視野で患者と地域を診る医師と鍼灸師が協働することで、患者個人さらには地域に貢献できるのではないかと思っています。
川畑
鍼灸師がゲートキーパーの一員を担うことが理想であるということですね。
実際に地域医療の場で、鍼灸師が医師や他の医療職種と連携して活躍していくためには、それなりのハードルがあって、必要な能力というものがあると思うのですけれども、先生はその必要な能力というのはどのような点だと思われますか?
寺澤先生
雑に言ってしまうと、一つはコミュニケーション力だと思います。
だけどコミュニケーションの相手が医師や医療者であるので、その背景には莫大な正しい医学知識が必要なんですね。
まずコミュニケーション力というのは最近よく言われていると思います。
“私、引っ込み思案なので全然喋れない”という人がいると思うんですけれども、コミュニケーション力って生まれ持ったものじゃなくて、何歳からでも鍛えられるもので、私も日々鍛えているようなものなんですよね。
鍼灸師の皆さんも、そういうコミュニケーション力というものを鍛えられたら良いなと思います。
医学知識に関してもですが、日々医学情報はUPDATEされます。
鍼灸師として、病院等と連携するために抑えておかねばならない医学知識を持ち合わせていないと相手にされないのが現状だと思います。
いつの間にか覚えている、いつの間にか使えているという風な知識を共有したいですね。
川畑
そのような場にできるだけ身を置くことや、アンテナをしっかり立てておくこと、意識してその共通言語を使えるようになること、そういうことが大事になるのでしょうね。
鍼灸師の学校を私たちが立ち上げるということで、ビジョンをお話させていただいたのですけれども、今回どのような思いで参加いただけたのでしょうか?
寺澤先生
私自身も、鍼灸大学を卒業した後というのは今思ってもまだまだ未熟でした。
結局は国家試験に受かる能力は教えて頂いたけど、患者さんと接する能力とか、もちろん地域を見る能力というのは、あまり学べていなかった。それを現場で見ながら、学びながらやっていくしかありませんでした。
しかも就職するところによっては表面的な技術ばかりが享受される職場だと、必要な知識を全然学べずに時間が経ってしまうと思うんですね。
そこから、いざ自分が新しいステージにいく、例えば開業するということになった時に、視野が狭くなっていたり、自分が得ていない何か大きなものに気付くんですよ。
この「鍼灸師の学校」というのはそういうところを俯瞰して見てくれていると思うのです。
鍼灸師に必要な技術・知識・態度というものをしっかり学べて、正しい技術・知識を活かして患者さんや地域に貢献する人材を育成していくビジョンというのは大変共感しました。
医師はり師きゅう師というポジションから、鍼灸師の皆さまに身につけていただくと役立つ知識・技術を共有できれば嬉しく思います。
川畑
ありがとうございます。鍼灸師の卒後の教育体制には大きな課題があると感じていますので、ぜひ一緒により良く変えていければと願っています。
ところで、「鍼灸師の学校」では、他にも様々なクラスが開催されますが、気になっているクラスはありますか?
寺澤先生
気になっているのは、私もあまり詳しくない分野の考え方とか、患者さんの主訴やプロフィールを絞ったクラスですね。
マタニティや頭痛などフォーカスを絞ったものや、違う理論の視点を通じて、同じ主訴・患者に対して違うアプローチを各クラスで同時に学べるというのは、自分の視野が狭くならないための、大きな利点なのではないかと思っております。
鍼灸師が若手でつまずく時というのは、一つの鍼灸院や一つの研究会からの学びになってしまい、そこだけを極めようとする時ですね。その時にはすでに俯瞰した見方ができなくなってしまいます。
「鍼灸師の学校」は、その一つの考え方に囚われすぎる前に、ひとまず色々なことを知る一歩を踏み出す良い機会だと思います。
実は全部見たいという気分です。
それくらい魅力的なクラスが揃っています。
川畑
ありがとうございます、ぜひ色々なクラスをチラ見してみてください。
医師になったら、卒後研修では基本的には様々な診療科を回りますよね?
その中で自分がどの道を専門に進んでいくかという重要な決定をする。
そのプロセスは自然ですし、そうあるべきだと思います。
鍼灸の世界ではそのプロセスが無いので、先生がおっしゃったように「鍼灸師の学校」を良い機会にしていただけたらと思います。
寺澤先生
医師にしても鍼灸師にしても就職先を考える時、最初に出会った人とか、部活の先輩とか、自分の実家の近くにあるとか、そういうので簡単に選んでしまうことは実際多いと思うんです。
それが本当に一期一会で自分に本当にあったものであれば良いのですけれども、鍼灸の世界って本当はめちゃくちゃ広い。
決して一つに拘らなくても良いので、その視点だけは保ち続けていただきたいなと思います。
川畑
ありがとうございます。
最後となりますけれども、鍼灸師の学校で先生のクラスで学ぶ鍼灸師の皆様にメッセージをお願いいたします。
寺澤先生
きついことを言うかもしれないですけれども、私は残念ながら、努力は全て報われないと思っています。
努力は報われないですけれども、実はこれには続きがあって。
“正しい努力”は必ず報われると思っています。
だから、ぜひ皆さんには鍼灸師の学校を通じて一緒に“正しい努力”に励みたいなと思いますので、よろしくお願いします。
川畑
“正しい努力”、大切ですね!
さまざまな魅力的なクラスができるのですが、メイン講師が医師というのは先生のクラスだけでスタートしますので、「鍼灸師の学校」の中でも特別な意味のあるクラスになると確信しております。
大変楽しみにしております!
寺澤先生、本日はお忙しいなかありがとうございました。